筋肉チェイサー
-TAKEAKI-
一三二郎は自分のもつ「歯」の可能性について調べるようになりました。
初めは普段摂っている野菜を「歯」に当ててみた。
特に何も感じない。
そのまま力を入れて口を閉じてみる。
すると、野菜は中から水を放出しながら見事に形を崩しました。
このとき、一三二郎は思いました。
(これを繰り返せば吸える状態へともっていける。やはり、私にも生きる道があるのだ。)
そう思うと同時に、一三二郎が今まで抱えてきた闇に対して微かな光がさしたのを感じました。
また、家族を含めこのこと(「歯」の可能性について)は話さない方がいいとも感じました。
次に、外にいる虫を「歯」をもってして壊せるか試すことにしました。
結果はもちろん壊すことができました。
そして、口の中で崩したとき一三二郎は思いました。
(崩せたということは、「食べる」ことができるのだろうか。この行為はしていいことなのだろうか。)
しかし、そう思った時にはもう飲み込んでいました。
本来の一三二郎であれば、一旦食べることを止めるのであろうけれども、、、
虫を喰らい、次の日の朝。
一三二郎のもつ衰える一方だった1きんにくがすこし若返っていました。
一三二郎は喜びました。
一三二郎はかすかに感じた光をこの時確実なものとして捉えることができました。
その日から周りの人の目を盗んでは虫を喰らうようになりました。
きんにくの調子は上がっていったが次第にある一定のところで止まりました。
そこで、一三二郎は家畜を喰らうことにしました。
家畜を喰らうことはこの国では禁止事項でした。
しかし一三二郎はこの頃にはもう以前のように冷静に考えることができなくなっていました。
家畜を喰らう一三二郎。
きんにくの調子は最高潮になりました。
しかし、きんにく量は決して増えませんでした。
一三二郎はいかにすればきんにくを増やせるのかだけを考えるようになりました。
そして、すぐに考えるのをやめました。
答えは考えるまでもなくわかっていました。
その日以降一三二郎は考えてはやめ、考えてはやめるの繰り返しでした。
その間も家畜を喰らい、考えを実行する衝動を抑えていました。
五頭目の家畜を喰らったその日、
父一二郎にバレました。
一三二郎は考えを実行しました。
一三二郎は一一三二郎になりました。
こうなったらもう止まりません。
兄と姉を喰らい、一一一二一一三二郎となりました。
そして、母二二郎の部屋を訪れると母が泣いているのに気がつきました。
一一一二一一三二郎は止まりませんでした。
一一一二一一三二郎はもう後には引けないことはわかっていました。
母を喰らい九三二郎となりました。
夜、一人になって思いました。
(俺は他を喰らわないと生きていけぬのだ。俺は他とは違うのだ。そう、やむを得ぬこと。)
そんなことを考えている自分が悲しくなりました。
そして、悟りました。
これからも人を喰らい生きなければならぬのか。
そう悟った時、
九三二郎はひどい孤独感に襲われました・・・
また、初めて明日のことを思いました。